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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2691号 判決

原告 田端復興土地区画整理組合

被告 北区田端復興土地区画整理組合 外一名

主文

一、原告と被告北区田端復興土地区画整理組合との間において、別紙第一目録〈省略〉記載の建物が原告の所有であることを確認する。

二、被告組合は原告に対し、右建物を明渡せ。

三、被告組合は原告に対し、別紙第二目録〈省略〉記載の書類を引渡せ。

四、原告と被告両名との間において、東京台東地区駒込分局電話番号八二一局一六二七番の電話加入者が原告であることを確認する。

五、被告島田作次郎は原告組合代表者谷田貝桂一に対し、右電話加入権譲渡による登録の手続をせよ。

六、訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は第二および第三項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因として、

一、原告田端復興土地区画整理組合は、昭和二三年三月一三日東京都知事の組合設立認可により設立された、東京都北区田端一円の区画整理を目的とした組合であつたが、昭和三〇年六月三〇日に東京地方裁判所において言渡された、同庁昭和二四年(ワ)第四、九七七号、同二五年(ワ)第五七六号併合事件の判決で、設立ならびに設立認可の無効が確認され、その控訴審である東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一、四一二号事件の昭和三三年一月三一日言渡の判決で控訴棄却となり、同年二月一九日右無効確認判決は確定し、したがつて原告組合は爾後清算の目的の範囲において存在することになつた。

二、ところで、右のように公法人である原告組合が設立ならびに設立認可無効の判決によつて清算過程にはいつた場合に、その手続において準拠すべき規定について明確を欠くのであるが、原告組合がその組合規約に基ずき一〇年近くも区画整理事業を施行して来た社会的事実からして、右設立ならびに設立認可無効確認判決の確定により、商法第一三八条の法意にしたがい、当然解散の場合に準じて清算手続をなすべく、原告組合規約および旧耕地整理法、同法施行規則により、右判決の確定当時原告組合の組合長の職務を代行する地位にあつた組合副長谷田貝桂一が原告組合の清算人となつた。

仮に原告組合が当初から公法人として存在せず、右設立無効確認め判決はその趣旨を宣言したもので、したがつて解散を前提とする、清算過程をとり得ないとしても、原告組合は設立認可以来一〇年近くも、その組合規約に基ずいて構成されまた目的の事業を施行してきた社会的事実からして、同規約に支配される法人格なき社団であり、かゝる社団は前記の判決の確定にかゝわりなく新たな規約が作られないかぎり、なお従前の規約が支配されるものであるから、同規約の内容にしたがい、谷田貝桂一が右の意味の社団である原告組合の清算人となつた。

三、被告北区田端復興土地区画整理組合は、昭和三三年一〇月一八日土地区画整理法第二一条第二項に基ずき東京都知事により設立認可された組合で、原告組合が区画整理の施行地区とした区域の一部を施行地区とするものであるが、原告組合とは何ら関連をもたない別個の組合であるところ、昭和三三年一二月頃、北区田端町三六〇番地与楽寺境内に建築されていた原告組合所有の別紙第一目録記載の建物を、何らの権原もなく現在の場所に移築し、被告組合の事務所として使用しており、また、右建物内に保管されていた原告組合所有の別紙第二目録記載の書類も、右移築に際しこれを持ち去り、現在これを占有している。よつて原告は被告組合との間において右建物が原告の所有に属することの確認と、右各所有権に基ずき被告組合に対し右建物の明渡および右書類の引渡を求めるものである。

四、次に原告組合は、昭和二四年一二月二日、に設置した当時駒込局(82)一六二七番の電話加入権者であるが、当時郵政省において原告組合を準法人の取扱いをしたため、右電話はその際の組合長浅香銀次郎の名義をもつて前記与楽寺境内の原告組合事務所に設置されてあつたところ、被告組合は昭和三三年一二月一〇日右浅香と相謀つて右電話の設置場所を被告組合の肩書地に変更し、さらに昭和三四年八月一日右電話加入権を浅香から被告組合に譲渡し、たゞ被告組合もまた日本電信電話公社より準法人として取扱われたので、同組合の理事長である被告島田作次郎名義で右公社から譲渡の承認を受けている。

しかし浅香銀次郎は原告組合の右電話加入権を被告組合に譲渡する権限なく、また被告島田はこのことを熟知しているので、右譲渡は無効である。

よつて原告は被告両名との間において右電話加入権が原告に属することの確認と、被告島田に対し右電話加入権の名義を原告組合の清算人である谷田貝桂一に移転して右公社にその承認の手続をするよう請求するものである。と述べ、被告らの本案前の抗弁に対し、

同主張一の事実は争う。その詳細は請求原因二記載のとおりである。

同二記載の事実中、訴外保坂[金惠]太郎が被告ら主張の頃原告組合の組合長代理組合副長であつたことは認めるが、その余は争う。同人は昭和三三年一月二五日に右地位を辞任し、その結果組合規約により組合副長の谷田貝桂一が組合長代理の職に就いたものである。

と述べた。

被告ら訴訟代理人は、本案前の抗弁として、本訴は代表権限のない者が提起した訴であるから却下を求める、と述べ、その理由として

一、原告組合の設立ならびに設立認可について、無効確認の判決が確定したことは原告主張のとおりであるところ、右判決は、原告組合の設立が有効であるならば、その規約の強制適用が許さるべき組合構成員の多数が設立認可の当初から設立について不知または反対であつたことから、構成員に強制力を有する公法人としての原告組合は当初から不存在である旨を確認したものであり、したがつて原告組合が右判決の確定により清算過程にはいつたからといつて、有効に設立された公法人の解散に関する諸規定を適用または準用する余地がなく、また前記判決により設立ならびに設立認可の無効であることが確定された原告組合は、結局その実体を権利能力なき社団と解すべきものとしても、前記原告組合の規約は、組合が有効に設立されたことを前提として拘束力を与えられたものであるから、組合が不存在となつた以上、当初から何らの効力も有しなかつたもので、同規約に基ずいて組合副長に選任された谷田見桂一は右社団についても何らの代表権限がなく、原告組合の清算人としての資格がない。

二、仮に右規約により清算人が選定さるべきものとしても、昭和三三年一月末頃原告組合の組合代表者は訴外保坂[金惠]太郎であつて、同人は未だ辞任していないのであるから、清算人は右保坂であつて谷田貝桂一ではない。

と述べ、本案に対する答弁として、

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、

請求原因一記載の事実は認める。

同二記載の事実中、設立ならびに設立認可無効の確定された原告組合がいわゆる法人格なき社団であることは認めるが、その余の事実は争う。その理由は被告らの本案前の抗弁として既に述べたとおりである。

同三および四記載の事実は認める。但し谷田貝桂一に原告組合の清算人としての資格がないのでその引渡ならびに電話加入権名義の変更を拒絶するものである。

と述べた。

証拠〈省略〉

理由

まず原告代表者谷田貝桂一の代表資格について判断するに、原告田端復興土地区画整理組合が昭和二三年三月一三日東京都知事の設立認可を受けて設立された北区田端一円の区画整理を目的とする組合であつたが、原告主張の判決により、昭和三三年二月一九日その設立ならびに設立認可無効が確定し、爾後清算の過程にはいつたことは当事者間に争がないところ、右判決により明らかなように原告組合はその設立の当初から法人格を有しなかつたのであるから、商法におけるような明文の規定のないかぎり、右判決の確定まで法人格を有したことを前提として、爾後清算の範囲内で法人格を有するものとはいい得ないので、原告組合の清算について、原告主張の如く旧耕地整理法、同施行法が適用されるものと解せられない。しかしながら成立に争のない甲第二号証の一ないし四、第三号証および弁論の全趣旨によると、原告組合は昭和二三年三月一三日東京都知事の設立認可を得て以来、同三〇年六月三〇日に前示設立ならびに設立認可無効確認訴訟の第一審判決が言渡されるまで、組合規約を作成してこれにより組合の構成、事業の目的および内容、組合の意思決定ならびに執行機関を定めて、目的の事業を遂行し、また組合個有の財産を保有管理して来た事実が認められ(この認定に反する証拠はない)、このことからすれば原告組合の実体は、いわゆる法人格なき社団に当るものと解せられ、この点については当事者間に特に争もない。しかしてかゝる社団が清算過程にはいつた場合、準拠すべき規定のないことは、その社団の性質上当然であるが、原告組合は前示のとおりその組合規約によつて運営されてきた社団であるから、同規約は社団構成員の肯認のもとに社団の規約として活用されていたものというべく、したがつて前示無効確認判決によつて公法人としての人格の存在を前提とする事業の施行その他の規定部分について拘束力が当初からなかつたことになるとしても、清算過程において必要とされる執行機関等に関する規定はなお社団を規律するものとして効力を有するものと解すべく、前掲各証拠および成立に争のない甲第二号証の五の(イ)(ロ)(ハ)によると、原告組合規約第四ないし第七条において、原告組合に組合長一名、組合副長三名を置いて組合長が組合を代表し、組合長事故あるときは組合長の予め定めた順序によつて組合副長がその職務を代行し、組合長の定めた者がないときは年長順による旨の規定があるところ、昭和二九年一〇月に組合長に就任した長岡慶信、組合副長に就任した保坂[金惠]太郎、古沢清治、谷田貝桂一のうち、長岡は昭和三〇年一〇月、古沢は同三二年九月、保坂は同三三年一月にいずれもその職を辞任し、結局谷田貝桂一が前示判決確定時における組合長の職務を代行すべき地位にあり、その後新たに組合を代表すべき者が選任されていない事実が認められ、前掲甲第二号証の二(別件証人保坂[金惠]太郎の尋問調書)の証言の趣旨も右認定を妨げるものではなく、他に右認定に反する証拠はない。しかして右規約に清算に関する規定が欠けているのであるが、このように特段の規定のない以上、清算過程にはいる際における社団の代表者が清算人に相当するものとしてその職務を行なうべきことは前示の如き社団の性質上当然と解すべく、本訴は右の如き社団の代表者として谷田貝桂一により提起された適法のものと解する。

よつて本案について判断するに、別紙第一目録記載の建物および第二目録記載の書類が、いずれも前示社団としての原告組合の所有であり、被告組合が現にこれらを占有することは当事者間に争がなく、被告組合においてその占有権原について何ら主張立証をしないので、被告組合は原告に対し右建物を明渡しかつ右書類を引渡す義務があり、また原告主張の電話加入権東京台東地区駒込分局電話番号八二一局一六二七番(昭和二四年に設置した駒込局( )一六二七番が電話取扱局の変更により訂正されたものであることは公知の事実である)が、原告組合に属し、原告主張の経過により現在被告組合代表者の被告島田作次郎の加入名義となつていることは当事者間に争がなく、この事実によれば、右電話加入権は当然原告組合に返還さるべきところ、原告被告は前示のとおりいわゆる権利能力なき社団であるので、電話加入権の登録を受ける関係から、社団を代表して財産を管理すべき原告組合の代表者谷田貝桂一に登録されるべくしたがつて被告島田作次郎は同人に対し、右電話加入権を返還し、かつ公社にその承認を受ける義務がある。

よつて原告の本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 野口喜蔵 山本和敏)

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